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2009-04-21

オトコの生きる道

2008年初頭に、MySQL ABがSunに買収されて非常に驚いた。400人弱の会社を10億ドル(1000億円程度)で買収するという破格の買収劇だった。単純計算でいうと、一人頭2.5億円で移籍したわけである。そして俺もその400人の中に含まれていた。。。

MySQL ABは素晴らしい職場だった。Sunに買収されてから現在に至るまでも、Sun自体の業績が良くなかったために人員の増加が出来ない(超忙しいヨ!)といった問題はあったものの、基本的にはMySQL ABと同じ労働環境を維持することができた。MySQLサポートチームの同僚は世界中に住んでいて、仕事を始めると社内のIRCにログインして挨拶を交わし、電話とPCとインターネットさえあればどこでも仕事をすることが出来た。(だから殆どが在宅勤務である。)そして同僚の技術レベルが素晴らしく高かった。早いときには30分以内にソースコードを確認して回答まで出してしまうのである。このようなサポートレベルの高さはオープンソースソフトウェアならではのものだろうが、入社した当時はそれは驚いたものである。インターネットで必要な情報がすぐに手に入るようになったとは言え、会話によるコミュニケーションは重要であるから、レベルの高い環境に身を置くのは技術者として非常に重要なことである。本当にいい職場に来たと思った。

そして、この度Sunが買収されることになってしまった。MySQLが一方的にライバル視していたOracleにである。Oracle DatabaseとMySQLはデータベース製品としては機能的に競合している部分が多いので、MySQLの行く末が非常に気になるところである。もちろん、MySQLには圧倒的に足りない機能があるのだが、それでもOracle Databaseにはない魅力もあるのは、MySQLに対する人気からも分かるだろう。

Oracle社のページに行くと、買収に関するFAQが置いてあり、その中にMySQLに関する記述が載っている。以下、引用。

what does Oracle plan to do with MySQL?

MySQL will be an addition to Oracle’s existing suite of database products, which already includes Oracle Database 11g, TimesTen, Berkeley DB open source database, and the open source transactional storage engine, InnoDB.

この文章だけを読むと、既存のデータベース製品群を補完するものとしてラインナップされるようである。しかし正直なところ、MySQLがOracle社にとってどのような位置づけになるかはまだ想像もつかない。何故ならば、MySQLは言わずと知れたオープンソースのRDBMSであり、デュアルライセンスとサブスクリプションモデルによるビジネスを展開していたが、Oracleのビジネスモデルはオープンソースを主軸とはしていないからである。想像がつかないのは俺自身がよく知らないだけだからかも知れないが、MySQLがどういうビジネスモデルによって維持されていくかが非常に気がかりである。

ところで、OracleによるSunの買収額は、74億ドル(7300億円弱)である。Sunが3万人規模の会社であるので、一人頭およそ2500万円程度での移籍ということになる。MySQL ABが買収されたときと比べると、一人あたりの買収額はなんと10倍もの差がついたわけである。(74億ドルは、先のBEA買収よりも安い。)今回の買収も逆の意味で破格なものとなってしまった。こちらの意味での破格での買収となると、買収される側は非常に心配になってしまう。

Sunへ移籍したときはかなりの歓迎ムードであったが、今回はどうなるのだろうか。Oracleはオープンソースソフトウェアに対してコミットしてくれるのだろうか。今の素晴らしい職場はキープできるのだろうか。2008年初頭に続いて、2009年春に買収である。世界的な不況のせいもあるし、元々IT業界は移り変わりが激しいとは言え、ちょっと激しすぎるのではないか。(ストレスでハゲたらどうするんだ!あのポニーテールの断髪式を行ってハゲにしてやりたい気持ちでいっぱいだ!!・・・などとは言わないが。)こう立て続けに買収されてしまうのは困ったものである。

今回の買収が報道されてから色々と考えさせられてしまった。そもそも、どうして自分はIT企業で働いているのかとか、どうしてそんなにGPLにこだわるのかとか。コンピュータは便利であり、コンピュータを使えば生活がもっと豊かに、もっと便利に、そして人々は幸せになるはずである。確かに生活は豊かになった。しかし、Rubyのまつもと氏が「プログラマと呼ばれる人たちが『妙に暗い』」と憂いでいるように、プログラマやエンジニアは幸せになっていないのではないかと思うことが多い。どうすればプログラマはもっと幸せになれるのかといことを考えた末にたどり着いた先が、GPLなのである。オープンソースも確かにいい。しかし数あるオープンソースライセンスの中でも最良なのが(クローズドソースにすることを認めない)GPLなのである。

俺がMySQLで働くことを決心したのは、MySQLがGPLライセンスだったからである。GPLは素晴らしいライセンスであり、エンジニアにとって働く会社を選ぶ自由を選択させてくれると先日ブログに書いた。「ならば今こそその自由を行使するべきときじゃないのか?」と言われるかも知れない。確かにその通りなのであるが、その自由を行使するかどうかは移籍先であるOracle次第であると考えている。つまり、
  • Oracleがどの程度オープンソースソフトウェアによるビジネスを本気で考えているか。(今後もGPLライセンスのもとでMySQLを精力的に開発していくのか?品質の高いサポートを提供していくのか?)
  • 働きがいのある環境をキープ出来るのか。
この2点さえクリアになれば、浮き足立つ理由は何もない。自分はGNU/GPLの信奉者であり、なおかつエンジニアとして一生過ごしたいと考えているので、これらの条件は必要なのである。だが、これらの条件が満たされない場合には少々焦ってしまうだろう。そもそも企業が買収された直後にクビになるというのもよ く聞く話であるし、どうなっても驚かないようにはしたいと思う。見通しが見えない場合でも、日本男児たるものはどっしりと構えていたいものである。

Oracleのホームページを見ると、オープンソースソフトウェアに対して貢献をしているのが伺える。なので、Oracleがオープンソースソフトウェアを用いたビジネスに対して力を入れるのではないか?という淡い期待もある。既存のビジネスはオープンソースを主軸としていないかも知れないが、Sunが持っているソフトウェアのラインナップはオープンソースに傾倒している。それらの資産を活かすためには、オープンソースソフトウェアをビジネスに活用するしかない。もしかすると、「欲しかったのはハードウェアだからそんなソフトウェア資産は活かす道がない」と言って捨て去るかも知れない。(Javaをのぞいて。)いずれにせよ、まだ買収が決まったばかりなので、今後の動向を注意深く見守りたいと思う。(ちなみに、これら買収後の動向に対する予測は、あくまでも個人的な推測に過ぎないので断じて信じないように!)

まだこの先MySQLがどのような運命になるのかは分からない。しかし、俺個人としては、これからもず〜っとGPL(またはオープンソース)ソフトウェアにたずさわって行きたいと思っている。そして、微力ながら日本のエンジニアやプログラマたちの未来を一緒に切り開いていきたい。ブログを書くのも、コードを書くのも、仕事をするのも、すべては愛すべき同胞たちと日本の将来のため。日本のエンジニア達に明るい表情を取り戻し、一緒に幸せなギーク生活を満喫するためなのである。

3 コメント:

くりす さんのコメント...

今年からこのブログにお世話になってるエンジニアの一人です。
今日のこの記事を読んで感動しました。
これからはどうなるかわからないですが、
エンジニア同士として一緒に頑張っていきましょう

Koichi Hirano さんのコメント...

Montyと合流するという道もあるのですね。http://monty-says.blogspot.com/2009/04/to-be-free-or-not-to-be-free.html

Mikiya Okuno さんのコメント...

> くりすさん

ご愛読ありがとうございます ;)

GPLは不滅です。エンジニア達が生き生きと仕事ができる世の中になるように頑張って行きましょう。もちろん、自分も生き生きしていなければなりませんので、買収はショックですが前を向いて精力的に活動していきたいです。

> Internalist さん

Montyに合流するという道もありますし、他の会社(MySQLをやってる会社はたくさんある)に入るという道や、自らforkするという道もあります。(最後のはとても熱いですが。)

MySQLはGPLですから、どのような道に進むかという「自由」が存在するわけです。そこで成功できるかどうかは腕次第なので、日々精進を怠らないようにしたいですね。

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